ここは美しい地獄 / 舞台刀剣乱舞 禺伝 矛盾源氏物語 感想 

舞台刀剣乱舞 禺伝 矛盾源氏物語、東京で1回、そして配信で観劇しました。

 

 

私にとって初めての生刀ステ。そして、オールフィメールというこれまでに無いキャスティング。観劇前からとても楽しみにしていました。その期待を裏切らない、オールフィメールだから成り立つ雅やかな世界観に心震えました。

 

オールフィメールでの刀ステ

発表時から賛否両論あったキャスティング。観劇して、これはオールフィメールだからこそ成立した舞台だと感動した。意図がしっかり伝わってきた。

平安時代の価値観といえども「女は男のための道具」「学のある女ははしたない」と、女性を蔑ろにするセリフが多々出てくる。フィクションだし、平安時代だし、と頭ではわかっているけど、女として生きている者としてやっぱり気持ちがいいものではない。(しかもこの感覚って現代でも身に覚えがあるなあ…なんてもやもや)そしてこのセリフを男性の役者が言うって、やっぱりセリフであってもムカつくじゃん… 男と女の社会的な差を見せつけられるというか… でも女性が演じることでセリフもマイルドになって、フィクションとして受け入れられた。観客の9割が女性という世界の中で、こちら側にすごく配慮してくれたのかな、とも思う。 
あと光源氏の女たぶらかしロリコンクソっぷりも女性が演じることで許せた(気がする。)色恋の部分も生々しすぎず、ひたすら美しい世界として認識できたのがよかった。

女性ならではの十二単で舞い踊る雅やかな世界に圧倒された。色とりどりの袖の広がりや、裾がなびく姿にとにかくときめいた。殺陣も男性に比べたらスピードや迫力は落ちる。だけど女性ならではのしなやかを感じられたり、抑え目のスピードだからこそ所作がきれいに見えたり。これはこれでとても好き。そして刀剣男士!一人一人はのちほど語るとして、完成度高かった。宝塚で経験を積まれた猛者のみなさんだからこそ、魅せ方を熟知されていて、そういう意味ではいわゆる若手俳優が演じるのを見るより安心感があった。表情管理とキメの所作が完璧で、かっこよさが保証されている。刀剣男士を演じるのに性別は関係ない。ただ一つマイナスをあげるとしたら、声かなあ。みなさんキャラに寄せてはいるんだけど、声だけでキャラを判別できないことが多くて、そこが残念だったかなあ。とはいえ、そう思ったのも最初だけで、後半は耳も馴染んできて気にならなくなった。

 

ストーリー

難しかった!いつもだけど!劇中に説明してくれるので理解はできたけど、源氏物語を先に履修しておけばもっと楽しめたんだろうな、と思うことが多々あった。
考察とかできないので、薄い感想にはなってしまうのだけど、物語と歴史の関係をこうやって描くんだと興味深かった。歴史ってhi-storyだから、ある意味で物語なんだと何かで聞いたことがあるけど、改めて歴史ってなんなんだろうな、と。そして刀ステでは物語がキーワードになるけど、ますます物語が何かわからなくなった… (これが円環…) 


そして、物語を創作する人と、消費する人の違いをありありと感じた。私は消費する側なので、創作する人の気持ちは100パーセント理解できない。だけど、少しわかった気がする。
歴史改変するのってだいたいクソデカ感情を持った人だけど、今回も例に漏れず。でもちょっと光源氏、というか一読者の彼の気持ちがわかっちゃうんだよな〜。自分を幸せにしてくれた人が地獄に落ちるなんて嫌だ→作者もそう思っているはずだ→自分が幸せにしてやらなきゃってムーブはとても理解できる。でもそれって自分のエゴだし、暴走してはいけない、と自戒を込めて胸にしまったのでした。一方で、こんなクソデカ感情迷惑男に対して懐疑心を持ちつつも、思ってくれる気持ちを無碍にできないと葛藤する創作者の気持ちも伝わってきて。いつの時代も、オタクって難しいなあと思いました。このあたり、末満さんの苦悩も混ざってるのかな、と思ったりして。

 

最後、大倶利伽羅が「俺たちの戦いが物語であったらどうする」と問い、歌仙が「そうであったとしても、その物語に心を寄せてくれる人がいるはずだ。その心に報いたい」と答える。こんなことを刀剣男士に言わせるのか!という驚き。(だってこれは物語…)でもこれって我々観客に向けての最大限の愛なんだろうなとも思う。それを美しい地獄と表現するのがもう痺れた… 全編通してぐちゃぐちゃにされた感情を、キャストと観客がわかちあえる。なんて雅で苦しいことか。 終わり方が綺麗すぎて、ため息。これからもこの美しい地獄に浸っていたい。

 

演出

布を使った場面転換が素晴らしかった!物語に覆われている、という世界観をこんな形で表現するんだ、って感動。長い裾を踏まないようにこの布に出入りするの、役者さん大変だろうな。私が観劇した回、どこかの場面で袖に回収する際に舞台の階段かな?に引っかかっちゃって、黒子さんがあたふたしてて。大丈夫かなと見ていたら、その袖から小少将の君が裾をたくし上げてぴょんと飛び跳ねて登場したのが、キャラクターにあっててかわいくて! ハプニングだったけれど、良いアドリブでした。

 

キャスト

歌仙兼定 / 七海ひろきさん

ガラシャ様からの転生、お疲れ様でした!綺伝からのバトンをしっかり受け継いでらっしゃいました。和田歌仙を思わせる殺陣のパワープレイもありつつ、七海歌仙らしいしなやかさが感じられた。和田歌仙より人付き合い上手くて、気遣いができる歌仙。なにより優しい。空蝉に物語を破綻させるために望まないことをさせたくなくてダメだ〜!ってなるところも、若紫の代わりに光源氏にとどめをさすところも、優しさと強さが感じられて好きでした。(ガラシャ様の影響を受けてるのかな)私のゲームでの初期刀が歌仙なこともあって、特別に思い入れのあるキャラクター。綺伝に続き、雅に活躍しててとても嬉しい。
七海さん、刀ステの世界観をとても大切にしてくださっててありがたい。賛否両論あるのをわかって、それでもなお観客に対して寄り添ってくださる姿勢に感服。大千秋楽カーテンコールの「これで物語を閉じます。パタン。」は流石にかわいすぎました…お茶目。

 

倶利伽羅 / 彩凪翔さん

か、かっこいい〜!!加羅ちゃんはいつだってかっこいいけど、キメを覚えた加羅ちゃんは無敵。危ない。なのに馴れ合い多めでかわいい。歌仙ともなんだかんだ適材適所で上手くやってていいコンビだなと思いました。思慮深い歌仙と武闘派の大倶利伽羅の対比が好き。光源氏in大倶利伽羅はさすがに笑っちゃった。よりによって… 大倶利伽羅が正気に戻ったとき、プレイボーイだった自分を恥じる様子が想像できる。(それ見ていじり倒す鶴丸ください。)

 

一文字則宗 / 綾凰華さん
本作一番のときめき泥棒。とにかく好きでした… 則宗、そもそも好きなキャラクターなのに完璧に顕現されてて…もう… 則宗ってこれまでメディアミックスに登場していなくて、動くモーションを見るのが初めてなはずなのに、ずっと見てきたかのような再現度。立ち方、座り方、喋り方、扇子の使い方、殺陣。どれもが完成度高くてずっと目で追ってしまいました… 博識で、女性に対して気遣いが出来て、流し目がセクシーなのに、交戦的で、戦い終わった後にニカっと笑われたらそりゃ好きになるって… 正直メロメロです。心鷲掴みにされました。
あと逸話は持つけど現存はしていない則宗がこの任務に当たっているのが切なくて。歴史か物語かでいうと、則宗って物語寄りの刀なので、いろいろ思うところがあったんだろうなあと。今回見どころが多くて、一文字則宗推しとしてはこれ以上ないくらいのご褒美でした。
綾凰華さん、カーテンコールの挨拶からとても聡明な方なんだなと。真摯に向き合う姿が好きでした。

 

山頂毛 / 麻央侑希さん
足5キロあった。と思うくらい、とにかく足が長くてスタイル抜群。かっこよくてダンディなお頭。南泉を嗜める口ぶりがもうトップのそれ。則宗と背中合わせで戦う場面は痺れた!!則宗と山頂毛の包容力のある二振りが、女性たちの気持ちに寄り添ったからこそ、源氏物語は破綻したんだろうなと思う。

 

姫鶴一文字 / 澄輝さやとさん
頼れるギャル姉御…!!気だるげな色気が漂ってくる。女性ということを一番活かした殺陣が素敵でした。くるくる回ってターン、からの容赦ない突きがまさに姫鶴! 歌仙のことを「かー↑ちゃん」って呼ぶんだ、って衝撃。

南泉一文字 / 汐月しゅうさん
本作のツッコミ役、そして観客との架け橋。南泉くんがいろいろツッコんでくれたおかげで情緒が保たれたし、源氏物語を理解できた。ありがとう。一文字一家と一緒にいる南泉は部下感が強くてかあいい。カーテンコールの汐月さん、ガチ審神者なのが伝わってきてとってもおもしれぇ女だなと思いました。梅津くんと同じ匂いを感じる。

光源氏 / 瀬戸かずやさん
圧倒的光源氏の説得力!!!光源氏マジでクソじゃんなんでこんな男好きなんだよみんな…って思うけど、瀬戸さんの圧倒的オーラと顔と口説き方で好きになってしまう気持ちがわかる。(会社の後輩が瀬戸さんは国民の彼氏なんで、みたいなこと言ってて納得した。)と思ったら冴えないモブも演じられて、オーラのスイッチのオンオフがすごい。

歴史上のキャストのみなさん
みーんな強くて綺麗で大好き!紫式部の聡明さも、六条御息所の熾烈さも、小少将の君のおてんばな感じも、ぜーんぶ好き。特に梅田彩佳ちゃんの演技が大好きで。熾烈さと穏やかさの二面が感じられて満足。梅ちゃんの声は劇場にスパーンッと響いてかっこいい。
そして、アンサンブルのみなさんもすごかった!時間遡行軍も全員女性!?と目を疑ってしまう。

 

 

最後に

結局三日月宗近ってなにー!山姥切国広どこほっつき歩いてるの!につきる。あの本丸と三日月宗近がどんな運命を背負っているのか、今後の刀ステがますます楽しみになった。いやほんと、刀ステ完結するまで死ねない。次は山姥切単独行。いよいよ物語の核心に迫っていくと思うと楽しみ。
そしてまたいつかスピンオフでもいいから、このオールフィメールの美しい地獄を見たいなあと思うのでした。